利益はこうして決まる! 収益構造(損益分岐点)分析でわかる利益改善の急所

「あといくら売れば黒字?」「どうすればもっと利益が増える?」に即答できますか?

これまでの記事で、損益計算書(P/L)から過去の利益を確認し、貸借対照表(B/S)から会社の財政状態を把握し、さらに収益性・安全性・生産性といった角度から会社の健康状態を分析する方法を見てきました。これらは主に、過去の実績を外部に報告したり、現状を評価したりするための「財務会計」の視点でした。

しかし、経営者としては、「来月、売上が10%増えたら利益はいくら増えるのか?」「赤字にならないためには、最低いくら売上が必要なのか?(=損益分岐点)」「目標利益を達成するには、具体的に何をすべきか?」といった、未来に向けた意思決定に役立つ情報が欲しいはずです。

このような問いに答える強力なツールが、「管理会計」の領域に属する「収益構造分析(損益分岐点分析)」です。コストを性質によって分解し、売上と利益の関係性を明らかにすることで、未来の利益を予測し、具体的な改善策を打つためのヒントを与えてくれます。

収益構造分析(損益分岐点分析)は、未来の利益を予測し、利益改善の打ち手を具体化する「管理会計」の必須ツール

「収益構造分析(損益分岐点分析)」とは、費用を売上の増減に関わらず発生する「固定費」と、売上の増減に応じて変動する「変動費」に分け、「限界利益」という概念を用いて、売上高・コスト・利益の関係性を分析する管理会計の手法です。

この分析により、損益分岐点(赤字にならない最低限の売上高)が明確になり、目標利益達成のための具体的な道筋(売上増、固定費削減、限界利益率改善)をシミュレーションし、意思決定に役立てることが可能になります。

なぜ「収益構造分析」が経営に役立つのか? 管理会計の視点

では、なぜこの分析が未来志向の経営判断に役立つのでしょうか?

理由1:「財務会計」と「管理会計」の違いを理解する【目的の違い】

まず、これまでの財務諸表分析(財務会計)と今回の収益構造分析(管理会計)の違いを理解しましょう。

  • 財務会計: 過去の経営成績や財政状態を、株主や金融機関などの外部利害関係者に報告することが主な目的。法律で定められたルールに基づき作成される。
  • 管理会計: 経営者や社内の管理者が、経営上の意思決定や業績管理に役立てることが目的。社内での活用が前提のため、比較的自由なルールで、自社に合った方法を用いることができる。

収益構造分析は、まさにこの管理会計の代表的な手法であり、未来の計画や戦略策定に直結する点が特徴です。

理由2:コストの性質(固定費・変動費)を理解する【コスト分解】

収益構造分析の第一歩は、会社の費用を「固定費」と「変動費」に分解することです。

  • 固定費: 売上高の増減に関係なく、一定期間、固定的に発生する費用。例:正社員の人件費、地代家賃、減価償却費、リース料など。
  • 変動費 : 売上高の増減に比例して変動する費用。例:売上原価(仕入原価、材料費など)、販売手数料、運送費など。

この分類は厳密には難しい場合もありますが、「売上がゼロでも発生するかどうか?」を一つの目安に、自社の費用構造を把握することが重要です。

理由3:「限界利益」が利益への貢献度を示す【重要概念】

次に重要な概念が「限界利益」です。

  • 限界利益 = 売上高 - 変動費
  • 限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高 (または 1 - 変動費率)

限界利益は、売上から変動費を差し引いた残りであり、これが固定費をカバーし、さらに利益を生み出すための源泉となります。限界利益(率)が高いほど、売上が増えたときに利益が増えやすい、収益性の高い構造であると言えます。

理由4:「利益の公式」で売上と利益の関係が明確になる【公式の活用】

固定費・変動費・限界利益を理解すると、利益(「経常利益」をベースに考えます)がどのように決まるかを示す、以下の重要な関係式が見えてきます。

経常利益 = (売上高 × 限界利益率) - 固定費

この式は、

  • 売上高が上がれば、限界利益率を掛けた分だけ経常利益が増える。
  • 固定費を削減すれば、その分だけ経常利益が増える。
  • 限界利益率が改善すれば(=変動費率が下がれば)、同じ売上高でも経常利益が増える。 という関係性をシンプルに示しています。

理由5:「損益分岐点」がわかることで経営の安全度が測れる【BEPの算出】

上記の公式で、経常利益がゼロになる売上高が「損益分岐点売上高 (Break-Even Point Sales、BEPとも呼ばれます)」です。

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率

これは、最低限これだけ売れば赤字にはならないというラインを示します。実際の売上高が損益分岐点をどれだけ上回っているか(安全余裕率)を見ることで、経営の安全度を測ることもできます。損益分岐点が低いほど、少ない売上でも利益が出る、環境変化に強い体質と言えます。

理由6:「業績改善の3つの切り口」が明確になる【改善策の方向性】

この収益構造分析のモデルは、業績(経常利益)を改善するための具体的な方向性を、以下の3つの切り口で考えることを可能にします。

  1. 売上高(販売数量)を増やす: 目標利益を達成するには、あといくら売上が必要か?  *目標売上高=(固定費+目標経常利益)➗限界利益率
  2. 固定費を削減する: 固定費を削減すれば、損益分岐点は下がり、利益は直接的に増加します。どこに削減の余地があるか?
  3. 限界利益率を改善する:
    • 変動費率を下げる: 仕入価格の交渉、材料ロスの削減、外注費の見直しなどで変動費を削減する。
    • 販売価格を上げる: 商品・サービスの付加価値を高め、価格競争から脱却する。

経営者は、自社の状況に合わせて、これら3つのどの切り口(あるいは組み合わせ)で改善を図るのが最も効果的かを、シミュレーションしながら検討することができます。

事例:収益構造分析で目標利益達成への道筋が見えたG社

G社(カフェ)の現状:

  • 月間売上高:200万円
  • 変動費:80万円(変動費率 40%)
  • 固定費:100万円(人件費、家賃、支払利息等含む)
  • 限界利益 = 200万円 - 80万円 = 120万円
  • 限界利益率 = 120万円 / 200万円 = 60%
  • 経常利益 = (200万円 × 60%) - 100万円 = 120万円 - 100万円 = 20万円
  • 損益分岐点売上高 = 100万円 / 60% = 約167万円

社長は、月間経常利益を40万円に引き上げたいと考えています。どうすればよいでしょうか?

  • 案1:売上高を増やす
    • 目標売上高 = (100万円 + 40万円) / 60% = 140万円 / 60% = 約234万円
    • → あと34万円(約17%増)の売上アップが必要。
  • 案2:固定費を削減する
    • 目標固定費 = (200万円 × 60%) - 40万円 = 120万円 - 40万円 = 80万円
    • → あと20万円の固定費削減が必要。
  • 案3:限界利益率を改善する(変動費率を下げる)
    • 目標限界利益 = 100万円 + 40万円 = 140万円
    • 目標限界利益率 = 140万円 / 200万円 = 70% (変動費率を30%に下げる必要あり)
    • → 材料ロス削減や仕入先見直しで変動費を10%(20万円)削減する必要あり。

このように、具体的な数値目標と、それに向けたアクション(集客強化、経費削減、原価改善など)を明確にすることができます。

まとめ:収益構造を理解し、データに基づいた未来志向の経営を!

収益構造分析(損益分岐点分析)は、過去の記録である財務会計とは異なり、未来の利益をシミュレーションし、目標達成のための具体的な打ち手を考えるための強力な「管理会計」ツールです。

自社のコスト構造(固定費・変動費)と限界利益を把握することで、損益分岐点を知り、「売上増」「固定費削減」「限界利益率改善」という3つの明確な切り口から、戦略的に利益改善に取り組むことが可能になります。ぜひ、この考え方を自社の経営に取り入れてみてください。


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