3つの数字で会社は丸わかり!キャッシュフローとP/L・B/Sの連携で経営を読み解く【Vol.5 まとめ】

点と点をつなぎ、会社の「全体像」を掴む

これまで4回にわたり、キャッシュフロー計算書(C/F)について、その概論から始まり、会社の「本業の現金創出力」を示す営業CF、「将来への投資活動」を示す投資CF、「資金調達・返済・還元」を示す財務CF、それぞれの見方と重要性を解説してきました。

個別のキャッシュフロー区分を理解することも大切ですが、それだけではまだパズルのピースを眺めているに過ぎません。経営の実態をより深く、そして正確に理解するためには、これらのキャッシュフローが互いにどう関連しあっているのか、そして、私たちが既によく知る損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S)と、どのようにつながっているのかを理解することが不可欠です。

財務三表(P/L、B/S、C/F)は、それぞれ異なる角度から会社を映し出す鏡ですが、決してバラバラに存在するものではありません。これら3つの情報を連携させて初めて、会社の経営活動の「全体像」が、より鮮明に、そして動的に見えてくるのです。今回は、キャッシュフロー分析の総まとめとして、この財務三表の連携に焦点を当てます。

キャッシュフロー計算書(C/F)は、P/L(利益)とB/S(財産)を繋ぐ”血流”

キャッシュフロー計算書(C/F)は、損益計算書(P/L)で示される「利益」と、貸借対照表(B/S)で示される期首から期末にかけての「資産・負債・純資産の増減」を、”現金の動き”という観点から繋ぎ合わせる役割を果たしています。

P/L(損益)、B/S(財産)、C/F(現金の流れ)という3つの財務諸表を個別に分析するだけでなく、それらの間の繋がり(=3表連携)を意識して総合的に分析することで、表面的な数字に惑わされず、会社の経営実態を本質的に理解し、より高度な経営判断を行うことが可能になります。

なぜ「財務三表の連携分析」が重要なのか? 全体像から本質を見抜く

3つの財務諸表を連携させて分析することが、なぜ経営にとって重要なのでしょうか?

理由1:キャッシュフロー計算書(C/F)の全体構造を再確認する

まず、C/F全体の構造を思い出しましょう。

  • 営業CF: 本業活動による現金の増減。会社の基本的な現金創出力。
  • 投資CF: 投資活動(固定資産取得・売却等)による現金の増減。将来への投資姿勢。
  • 財務CF: 財務活動(借入・返済、増資、配当等)による現金の増減。資金調達・還元戦略。

そして、これらの合計が、一定期間の「現金の増減額」となります。 営業CF + 投資CF + 財務CF = 現金及び現金同等物の増減額

この増減額が、期首の現金残高(前期B/S)に加減算され、期末の現金残高(当期B/S)になる、という基本的な繋がりがあります。 期首現金残高 + 当期現金増減額 = 期末現金残高

理由2:損益計算書(P/L)とキャッシュフロー計算書(C/F)の繋がりを理解する

P/LとC/Fは、特に営業CFの部分で密接に繋がっています。

  • 利益が営業CFの源泉(出発点): 営業CFの計算(間接法)は、多くの場合、P/Lの税引前当期純利益(または営業利益など)からスタートします。つまり、P/Lで生み出された利益が、どれだけ実際の営業キャッシュフローになったかを示しています。
  • 「利益 ≠ 営業CF」の要因を分析: その差額(調整項目)として、減価償却費のような「非現金支出費用」や、売掛金・在庫・買掛金といった「運転資本の増減」があります。この調整内容を分析することで、利益の質運転資本管理の効率性が評価できます。(Vol.2 営業CF 参照

P/Lの利益額だけでなく、それがしっかりと営業キャッシュフローに結びついているかを確認することが重要です。

理由3:貸借対照表(B/S)とキャッシュフロー計算書(C/F)の繋がりを理解する

C/Fは、B/Sの期首残高と期末残高の「差額(増減)」を、現金の動きを通じて説明する役割を持っています。

  • 現金の増減: C/F全体の合計額(現金及び現金同等物の増減額)が、B/Sの現金及び預金勘定の期首からの増減額と一致します。
  • 運転資本の増減(営業CF関連): B/Sの売掛金、棚卸資産、買掛金などの増減が、営業CFの調整項目として反映されます。
  • 固定資産・投資の増減(投資CF関連): B/Sの有形固定資産や投資有価証券などの増減が、投資CF(取得による支出、売却による収入)に反映されます。(減価償却による減少も考慮)
  • 有利子負債・純資産の増減(財務CF関連): B/Sの借入金や資本金、利益剰余金(配当による減少)などの増減が、財務CF(借入れ・返済、増資、配当など)に反映されます。

つまり、C/Fの各項目は、B/Sの様々な勘定科目の増減の「理由」を、キャッシュの動きとして説明しているのです。期首B/Sに、当期のP/L(利益→純資産へ)とC/F(現金の動き→各資産・負債・純資産へ)の活動結果を加味したものが、期末B/Sになる、というイメージです。

理由4:単一の指標や情報だけでは判断を誤るリスクを避けられるから

  • P/Lだけ見て「増益だ!」と喜んでも、C/Fを見ると営業CFがマイナスで、B/Sを見ると借入金が急増しているかもしれません(危険信号)。
  • B/Sだけ見て「自己資本比率が高い」と安心しても、P/Lを見ると赤字続きで、C/Fを見ると資産売却(投資CFプラス)で食いつないでいるだけかもしれません(危険信号)。
  • C/Fだけ見て「現金が増えた」と安心しても、それが借入(財務CFプラス)によるもので、本業(営業CF)はマイナス、投資(投資CF)もしていない、という状況かもしれません(危険信号)。

このように、3つの財務諸表を総合的に分析することで、一部分だけを見たことによる判断ミスを防ぎ、経営の実態をより正確に把握することができます。

事例:財務三表の連携で見る企業の全体像

Vol.3, Vol.4で見たB社の例を、財務三表連携の視点でもう一度見てみましょう。

  • B社(老舗の安定企業):
    • P/L: 安定的に高い利益(例:当期純利益 130百万円)を計上している。
    • C/F:
      • 営業CF: +200百万円(利益130 + 減価償却費等 +70。利益以上にキャッシュを稼ぐ力がある)
      • 投資CF: -50百万円(老朽化設備の更新投資を着実に実施)
      • 財務CF: -150百万円(借入返済 100 + 配当 50)
      • 現金増減: ±0百万円
    • B/S:
      • 現金残高は期首と変わらず。
      • 固定資産は投資と減価償却で純額が微減。
      • 借入金は返済により100百万円減少。
      • 純資産は利益剰余金が(利益130 - 配当50 = +80)増加し、自己資本比率がさらに向上。

総合評価: P/Lでしっかり利益を出し、それを上回る営業キャッシュフローを創出。そのキャッシュで将来に必要な投資を行い、借入金を着実に返済し、株主にも還元。結果としてB/Sの財務基盤(自己資本比率)も強化されている。――― 非常に健全で理想的な経営サイクルが回っていることが、財務三表を連携させることで明確にわかります。

まとめ:財務三表を羅針盤に、未来へ向かう航路を定めよう!

損益計算書(P/L)、貸借対照表(B/S)、そしてキャッシュフロー計算書(C/F)。これら財務三表は、それぞれが重要な情報を提供してくれると同時に、互いに密接に連携しあっています。

この3つの数字(財務三表)を総合的に読み解くスキルを身につけることで、あなたは自社の経営状態をより深く、より正確に把握し、自信を持って未来への舵取りを行うことができるようになります。表面的な数字に一喜一憂することなく、本質的な課題や機会を見抜き、的確な打ち手を講じていきましょう。

これでキャッシュフロー分析シリーズは終了です。財務分析の旅はまだ続きますが、これらの基本的な考え方が、皆様の経営の一助となれば幸いです。


経営診断 × デジタル戦略で、未来を切り拓く

現状の経営分析はもちろん、WEBマーケティングやIT導入の知見を活かした成長戦略を描きませんか? はとがい経営コンサルティングが、補助金活用も含めた具体的な計画策定から実行まで、貴社を力強くサポートします。

▶ デジタル時代の経営戦略について相談する