会社の”稼ぎ”は本物か? 営業キャッシュフロー(営業CF)で見る本業の実力【Vol.2 営業CF】

その「利益」、ちゃんと現金(キャッシュ)になっていますか?

前回の記事では、会社のリアルな「お金の流れ」を示すキャッシュフロー計算書(C/F)の全体像と、それが「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3つに区分されることを学びました。今回は、その中でも最も重要と言われる「営業活動によるキャッシュフロー(以下、営業CF)」について深掘りしていきます。

損益計算書(P/L)で利益が出ていても、それがしっかりとした現金の裏付けのあるものとは限りません。「売上は立ったけど、入金はまだ先」「在庫をたくさん仕入れたから、手元のお金が減った」… こうした日常的な事業活動の中で、利益と現金にはズレが生じます。

営業CFは、まさにこの本業における「利益と現金のズレ」を調整し、最終的に事業活動からどれだけの現金を生み出したか(あるいは使ったか) を示してくれる指標です。あなたの会社の「稼ぐ力」が本物かどうか、この営業CFから読み解いていきましょう。

営業CFは、会社が本業で現金を稼ぐ力を示す”最重要”指標

「営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)」は、商品やサービスの販売・提供といった会社の主たる事業活動(本業)によって、どれだけ現金(キャッシュ)を獲得したか、あるいは使用したかを示すキャッシュフロー計算書(C/F)の中核項目です。

この営業CFがプラスであり、かつ継続的に生み出されていることは、その会社が本業でしっかりと現金を稼ぎ、事業を維持・成長させていくための基本的な体力を備えていることの証となります。多くの財務分析において、営業CFは最重要視される指標の一つです。

なぜ「営業CF」がそれほど重要なのか? その見方と分析ポイント

営業CFがなぜ重要視され、どのように見ていけばよいのでしょうか?

理由1:本業の「現金創出力」そのものを表すから

投資CFが将来への投資活動、財務CFが資金調達・返済活動を示すのに対し、営業CFは会社の根幹である「本業」がどれだけ現金を生み出しているかを直接的に示します。どんなに有望な投資を行ったり、巧みな資金調達をしたりしても、本業で現金を生み出せなければ、会社はいずれ立ち行かなくなります。営業CFは、事業の持続可能性を測る上での根源的な指標なのです。

理由2:「利益」と「営業CF」の差から”利益の質”が見えるから

営業CFは、P/Lの利益(税引前当期純利益や営業利益など)からスタートし、それにいくつかの項目を加減算して計算されます(間接法の場合)。この「利益と営業CFの差額」とその内訳を見ることが、非常に重要です。差額を生む主な要因は以下の通りです。

  • ① 非現金支出費用の調整:
    • 減価償却費など: P/Lでは費用ですが、現金の支出は伴わないため、利益に加算(+)して調整します。
  • ② 運転資本(※)の増減調整:
    • 売上債権(売掛金など)の増加: P/Lの売上より入金が少ない → 現金にとってはマイナスなので減算(-)。
    • 棚卸資産(在庫)の増加: 仕入れで現金が出ていく(または将来出ていく) → 現金にとってはマイナスなので減算(-)。
    • 仕入債務(買掛金など)の増加: P/Lの費用(売上原価)より支払いが少ない → 現金にとってはプラスなので加算(+)。
    (※運転資本:事業を回していく上で必要な短期的な資産・負債のこと。ここでは売上債権、棚卸資産、仕入債務が代表例)

利益は出ているのに営業CFが少ない(あるいはマイナス) という場合、それは「売掛金の回収が滞っている」「売れない在庫が溜まっている」など、運転資本の管理に問題がある可能性を示唆します。これは「利益の質が低い」とも言え、注意が必要です。

理由3:会社の「自由な現金」の源泉となるから

本業で生み出された営業CF(プラスの場合)は、会社が自由に使える現金の源泉となります。この現金を使って、

  • 借入金を返済する(財務CFへ)
  • 新たな設備投資を行う(投資CFへ)
  • 配当金を支払う(財務CFへ)
  • 手元に現金を蓄積する(B/Sの現金増へ)

といった活動が可能になります。十分な営業CFがあれば、外部からの資金調達に頼らずとも、健全な財務活動や将来への投資を行うことができるのです。

理由4:資金繰りの安定性を判断する基礎となるから

安定したプラスの営業CFは、良好な資金繰りの基礎となります。逆に、営業CFがマイナス、あるいは不安定な場合は、常に資金繰りに追われ、短期的な借入に依存したり、支払いのために無理な資産売却を迫られたりする可能性があります。営業CFの状況を把握することは、資金繰りの安定性を予測し、早期に対策を打つために不可欠です。

理由5:具体的な「業務改善」のポイントを示唆してくれるから

営業CFが伸び悩んでいる場合、その要因(利益と営業CFの差額の内訳)を分析することで、具体的な改善策が見えてきます。

  • 売掛金の増加が原因 → 回収期間の短縮、与信管理の強化
  • 棚卸資産の増加が原因 → 在庫管理の適正化、需要予測の精度向上、不良在庫の処分
  • 買掛金の減少が原因 → 支払いサイトの交渉(ただし、取引先との関係性も考慮)

営業CFの分析は、単なる財務指標のチェックに留まらず、日々の業務プロセス改善に直結するヒントを与えてくれます。

事例:営業CFの分析で課題を発見したA社

A社(卸売業)のP/Lでは、前期比で増益となっていました。しかし、社長は資金繰りが楽にならないことに疑問を感じ、キャッシュフロー計算書を確認しました。

項目金額(百万円)
税引前当期純利益50
減価償却費+10
売上債権の増加額-30
棚卸資産の増加額-20
仕入債務の増加額+5
営業CF15

分析結果: 利益は50百万円出ていますが、営業CFは15百万円にとどまっています。その主な原因は、売上債権が30百万円、棚卸資産が20百万円も増加していること(合わせて50百万円のキャッシュ減要因)でした。

洞察と対策: A社は増益に気を良くしていましたが、実際には「売上の回収が進んでいない」「売れない在庫が増えている」という問題を抱えていることが判明。このままでは黒字倒産のリスクもあると判断し、営業部門には売掛金回収の強化を、仕入・在庫管理部門には在庫圧縮を指示しました。

営業CFは本業の”通信簿”!プラスを維持・拡大しよう

営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)は、あなたの会社が本業でどれだけ現金を生み出す力があるかを示す、まさに”通信簿”のようなものです。

P/Lの利益だけでなく、営業CFの額、そして利益との差額(その内訳)をしっかりと分析することで、会社の真の健康状態、特に運転資本管理の巧拙が見えてきます。健全な事業運営のためには、営業CFを安定的にプラスにし、できれば利益額に近い水準、あるいは上回る水準を目指すことが重要です。

次回の記事では、会社の将来への投資活動を示す「投資キャッシュフロー」について解説します。


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