利益はあるのに現金がない? キャッシュフロー計算書(C/F)でわかる”お金の流れ”の真実【Vol.1 概論】
「勘定合って銭足らず」になっていませんか?
これまでの記事で、損益計算書(P/L)で利益を確認し、貸借対照表(B/S)で財政状態を把握し、さらに収益性・安全性・生産性・収益構造といった多角的な分析で会社の健康状態を見る方法を学んできました。
しかし、経営の現場では、「P/L上はしっかり利益が出ているはずなのに、なぜか手元の現金が足りない…」「売上は増えているのに、資金繰りが楽にならない…」といった、利益と現金の動きのズレに悩まされることがよくあります。これは「勘定合って銭足らず」と言われる状態で、最悪の場合、利益が出ていても支払いができずに倒産する「黒字倒産」を招きかねません。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか? それは、P/Lが「発生主義」で利益を計算するのに対し、会社の存続に不可欠な「現金」は、必ずしも利益と同じタイミングで動くわけではないからです。このリアルな現金の動きを捉えるために不可欠なのが「キャッシュフロー計算書(C/F: Cash Flow Statement)」であり、それを分析する「キャッシュフロー分析」なのです。
キャッシュフロー計算書(C/F)は、会社の”リアルな現金の出入り”を示す第三の財務諸表
キャッシュフロー計算書(C/F)は、損益計算書(P/L)、貸借対照表(B/S)と並ぶ重要な財務諸表であり、一定期間における会社の現金の実際の収入と支出(=キャッシュフロー)を、その性質に応じて「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3つの区分で表示したものです。
利益(P/L)や資産・負債(B/S)だけでは見えない、生々しい「お金の流れ」を把握することで、会社の資金繰りの実態、資金創出力、そして将来の支払い能力や成長可能性を評価することができます。まさに「Cash is King(現金は王様)」と言われるように、キャッシュフローの管理・分析は企業経営の生命線なのです。
なぜ「キャッシュフロー(C/F)分析」が重要なのか? 利益や資産だけでは見えない実態
キャッシュフロー計算書を理解し、分析することがなぜこれほど重要なのでしょうか?
理由1:「利益」と「現金(キャッシュフロー)」のズレを理解できるから
キャッシュフロー分析を理解する上で最も重要なのが、「利益 ≠ 現金」という原則です。P/Lは発生主義に基づき、現金が動かなくても収益や費用を計上します。
- 例1:売掛金 - 商品を掛(ツケ)で販売すれば、P/L上は売上・利益が計上されますが、代金が回収されるまで現金は入ってきません。売掛金が増えれば増えるほど、利益と現金の差は開きます。
- 例2:棚卸資産(在庫) - 商品を仕入れても、P/L上は売れるまで費用(売上原価)になりませんが、仕入れ代金の支払いで現金は出ていきます。在庫が増えれば、現金は減少します。
- 例3:減価償却費 - P/L上は費用として利益を減らしますが、実際には現金の支出を伴わない費用です。
- 例4:借入金の返済 - 元本の返済は現金の支出ですが、P/L上は費用になりません(利息のみ費用計上)。
キャッシュフロー計算書は、こうしたズレを調整し、実際にどれだけの現金が増減したのかを示してくれるのです。
理由2:「黒字倒産」のリスクを事前に察知できるから
利益が出ていても、売掛金の回収が滞ったり、過剰な在庫を抱えたり、多額の設備投資を行ったり、借入金の返済負担が重かったりすると、手元の現金が不足し、支払いができなくなって倒産に至る可能性があります。キャッシュフロー計算書を分析することで、資金繰りの悪化を示すサインを早期に捉え、黒字倒産のリスクを回避するための対策を打つことができます。
理由3:現金の「源泉」と「使途」が明確になるから
キャッシュフロー計算書は、現金が「どこから来て(源泉)、どこへ行ったのか(使途)」を、以下の3つの活動区分で分かりやすく示してくれます。これにより、会社の活動の実態をより深く理解できます。
- 営業活動によるキャッシュフロー(営業CF):
- 内容: 本業(商品・サービスの販売、仕入れ、経費の支払いなど)から生み出された、または使用されたキャッシュフロー。
- 意味: 会社が本業でどれだけ現金を稼ぐ力があるかを示す最も重要な項目。通常、プラスであることが望ましい。
- 【詳細 → 次回記事 Vol.2】
- 投資活動によるキャッシュフロー(投資CF):
- 内容: 将来の利益を生み出すための投資(固定資産の取得・売却、有価証券の取得・売却など)に関連するキャッシュフロー。
- 意味: 会社が将来に向けてどれだけ積極的に投資しているかを示す。成長のための設備投資などを行えばマイナスになることが多い。
- 【詳細 → 次々回記事 Vol.3】
- 財務活動によるキャッシュフロー(財務CF):
- 内容: 資金調達や返済(借入れ・返済、社債の発行・償還、増資、配当金の支払いなど)に関連するキャッシュフロー。
- 意味: 会社がどのように資金を調達し、株主や債権者にどう還元しているかを示す。借入をすればプラスに、返済すればマイナスになる。
- 【詳細 → その次の記事 Vol.4】
理由4: P/L・B/Sと連携して、会社の”動き”を立体的に捉えられるから
キャッシュフロー計算書は独立したものではなく、P/L・B/Sと密接に関連しています。
- P/L上の利益は、営業CFの出発点となります(非現金支出入項目や運転資本の増減を調整)。
- B/S上の資産・負債・純資産の増減が、キャッシュフロー計算書の各項目に反映されます(例:売掛金の増加は営業CFのマイナス要因、借入金の増加は財務CFのプラス要因)。
これら3つの財務諸表を合わせて分析することで、会社の経営状態や活動内容を、より動的かつ立体的に理解することができるようになります。【詳細 → シリーズ最終回記事 Vol.5】
事例:キャッシュフロー計算書が示す「利益の質」
同じ「当期純利益 500万円」の会社でも、キャッシュフロー計算書を見ると、その実態は大きく異なることがあります。
- 会社X:
- 営業CF: +800万円 (本業でしっかり現金を稼いでいる)
- 投資CF: -400万円 (将来のために適切に投資している)
- 財務CF: -300万円 (借入金を着実に返済している)
- 現金増減: +100万円 (健全なキャッシュフロー) ⇒ 利益の質が高く、財務的にも安定している可能性が高い。
- 会社Y:
- 営業CF: -200万円 (本業で現金を生み出せていない。売掛金増・在庫増などが原因か?)
- 投資CF: +100万円 (資産を売却して現金を作っている?)
- 財務CF: +600万円 (多額の借入で資金を賄っている)
- 現金増減: +500万円 (手元現金は増えているが…) ⇒ 利益が出ているにも関わらず、本業のキャッシュ創出力が弱く、資産売却や借入に頼っている危険な状態。将来の資金繰りに懸念。
このように、キャッシュフロー計算書は、利益の「質」や会社の「実態」を浮き彫りにします。
キャッシュフロー分析で「お金の流れ」を掴み、経営の舵を取る!
損益計算書(P/L)が「利益(儲け)」を、貸借対照表(B/S)が「財産の状態」を示すのに対し、キャッシュフロー計算書(C/F)は「現金の流れ」という、会社の生存に直結する極めて重要な側面を明らかにします。
「利益と現金のズレ」を理解し、「営業活動」「投資活動」「財務活動」という3つの視点からお金の動きを捉えること。これが、資金繰りに悩まされず、黒字倒産のリスクを避け、持続的な成長を実現するための第一歩です。
次回の記事からは、3つのキャッシュフロー(営業CF、投資CF、財務CF)それぞれについて、さらに詳しく解説していきます。
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