P/L・B/Sを読んだだけでは不十分? 財務分析で「経営の健康診断」を始めよう!

決算書、眺めているだけで満足していませんか?

これまでの記事で、会社の「儲け」がわかる損益計算書(P/L)と、会社の「財産・借金」の状態がわかる貸借対照表(B/S)の見方について解説してきました。自社の決算書に目を通し、「利益はこれくらいか」「資産はこのくらいあるな」と確認された方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、そこで終わってしまっては、せっかくの貴重な情報が活かされません。出てきた数字が「良いのか悪いのか?」「なぜそうなっているのか?」「どうすれば改善できるのか?」——こうした疑問に答え、具体的なアクションに繋げるためには、もう一歩踏み込む必要があります。

それが「財務分析」です。損益計算書や貸借対照表に記載された数字を、ただ眺めるだけでなく、比較したり、計算したり、深く読み解いたりすることで、初めて経営に役立つ「生きた情報」に変わるのです。財務分析を行わないまま経営を続けることは、健康診断を受けずに日々の体調だけで健康を判断するようなものかもしれません。

財務分析こそが、P/L・B/Sの数字を「経営の羅針盤」に変える鍵

損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)の内容を理解することは重要ですが、それだけではスタートラインに立ったに過ぎません。次に行うべき「財務分析」を通じて、数字の裏に隠された経営の実態を深く読み解き、自社の強み・弱みを客観的に把握することこそが、的確な経営判断を行い、会社をより良い方向へ導くための鍵となります。

財務分析は、決算書の数字を、あなたの経営をナビゲートする「羅針盤」に変えるための必須プロセスなのです。

なぜ「財務分析」が不可欠なのか? P/L・B/Sの”次”のステップ

では、なぜ単にP/LやB/Sを読むだけでなく、「分析」までする必要があるのでしょうか? その理由を具体的に見ていきましょう。

理由1:数字の「表面」だけでは見えない”実態”がわかるから

P/Lを見れば利益額はわかりますが、その利益が売上に対して十分なものなのか(=利益率)、効率的に稼げているのかは、分析しなければわかりません。B/Sを見れば借入金の額はわかりますが、その額が会社の体力に対して過大ではないか(=安全性)、自己資本とのバランスは取れているのかも、分析が必要です。

財務分析は、これらの比率構成を計算・比較することで、単体の数字だけでは見えてこない経営の「質」や「実態」を明らかにします。

理由2:「比較」によって自社の”現在地”がわかるから

財務分析の基本は「比較」です。

  • 過去との比較(時系列分析): 売上や利益、各種比率は、昨年や数年前と比べて改善しているのか、悪化しているのか? 成長しているのか、停滞しているのか? この比較により、自社の変化のトレンドを捉えることができます。
  • 目標との比較(予算実績比較): 期初に立てた予算や計画に対して、実績はどうだったのか? 目標を達成できたのか、できなかったのか? その差はどこにあるのか? これにより、計画の妥当性や実行度合いを評価できます。
  • 同業他社との比較(ベンチマーク): 自社の利益率や安全性、効率性は、業界平均や競合企業と比べてどうなのか? 自社の強みや弱みを客観的に位置づける上で非常に重要です。

これらの比較を通じて初めて、自社の数字が持つ意味合いが明確になり、課題や目指すべき方向性が見えてきます。

理由3:会社の「健康状態」を多角的に診断できるから【3つの視点へ】

財務分析は、会社の健康状態を様々な角度から診断するプロセスです。主に以下の3つの視点から分析を行うことで、会社の全体像をより深く理解できます。

  1. 収益性分析:どれだけ効率よく儲かっているか? → 会社の「稼ぐ力」を分析します。利益率は十分か、コスト構造に無駄はないかなどを検証し、収益力向上の糸口を探ります。【こちらの記事で詳しく解説
  2. 安全性分析:倒産リスクは低いか?支払い能力は十分か? → 会社の「財務的な体力・安定性」を分析します。借入への依存度は高すぎないか、短期的な資金繰りは大丈夫かなどを検証し、財務基盤の強化策を探ります。【こちらの記事で詳しく解説
  3. 生産性分析:ヒト・モノ・カネを効率よく活用できているか? → 会社の「経営資源の活用度」を分析します。従業員一人あたり、あるいは投下した資本に対して、どれだけの付加価値や利益を生み出せているかを検証し、業務効率化や付加価値向上のヒントを探ります。【こちらの記事で詳しく解説

これらの分析を通じて、自社の「健康状態」を総合的に把握し、具体的な改善策に繋げていくことができます。

理由4:勘や経験だけに頼らない「根拠ある意思決定」ができるから

「なんとなく、こうだと思った」「長年の経験でわかる」といった感覚的な判断も時には有効ですが、それだけでは大きな経営判断を誤るリスクがあります。

財務分析によって得られる客観的なデータや指標は、設備投資、価格戦略、人事戦略、資金調達など、経営における重要な意思決定を行う上での強力な根拠となります。データに基づいた判断は、成功確率を高め、関係者(従業員、金融機関、株主など)への説明責任を果たす上でも不可欠です。

理由5:具体的な「改善目標」と「行動計画」に繋げられるから

財務分析によって「収益性が低い」「安全性が懸念される」といった課題が明らかになれば、「来期は営業利益率を〇%改善する」「自己資本比率を△%まで引き上げる」といった、具体的で測定可能な目標を設定することができます。

さらに、なぜその課題が生じているのか(例:原価率が高い、借入依存度が高いなど)を深掘りすることで、目標達成のための具体的な行動計画(仕入先を見直す、増資を検討するなど)に落とし込むことが可能になります。分析は、行動のための出発点なのです。

事例:財務分析で経営改善のヒントを得たC社

C社は、地域密着型の小売業。社長はP/Lを見て毎年黒字であることに安堵していましたが、売上は横ばいで、利益も大きくは伸びていませんでした。

そこで、専門家のアドバイスを受け、簡単な財務分析を実施。

  • 収益性分析: 同業他社と比較すると、売上総利益率(粗利率)が低いことが判明。→ 商品構成や仕入れ、価格設定の見直しが必要と気づく。
  • 安全性分析: 自己資本比率が年々少しずつ低下しているトレンド(時系列分析)を発見。→ 利益の内部留保を増やし、財務体質を強化する必要性を認識。
  • 生産性分析(簡易的な在庫回転期間など): 在庫がやや過剰気味で、商品回転が鈍化している可能性が示唆された。→ 在庫管理方法の見直しや、売れ筋・死に筋分析の必要性を感じる。

これらの分析結果から、C社の社長は「ただ黒字なら良い」という考えを改め、「粗利率の改善」「財務体質の強化」「在庫管理の効率化」という具体的な経営課題を認識し、改善策に着手することができました。

財務分析で、会社の未来をデザインしよう!

損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)は、会社の過去と現在の姿を映し出す鏡です。そして、財務分析は、その鏡に映った姿を正しく解釈し、未来に向けてどう進むべきかを考えるための羅針盤です。

分析を難しい計算式の暗記だと捉える必要はありません。まずは自社の数字に関心を持ち、「なぜこうなっているのか?」「どうすればもっと良くなるのか?」という問いを持つことから始めてみませんか?

次回の記事からは、具体的な分析手法である「収益性分析」「安全性分析」「生産性分析」について、それぞれ詳しく解説していきます。


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