「経営力向上計画」で会社の未来に投資する〜税制・金融・法的支援を賢く活用する経営者の選択〜
はじめに:今こそ、経営に“未来への視点”を取り入れるとき
中小企業の経営者にとって、日々の資金繰りや人材確保、設備の老朽化といった課題はつきものです。しかし、それらに対応していくために必要なのは、「目の前の問題解決」だけではありません。
- 数年先の会社の成長をどう描くか?
- 生産性を上げるために、どのような投資が必要か?
- 後継者問題に備え、今から何をすべきか?
これらを考えるとき、単独で取り組むには難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。
そんな経営者を国が後押ししてくれる制度が、「経営力向上計画」です。
経営力向上計画とは?
経営力向上計画とは、「中小企業等経営強化法」に基づき、企業が生産性や収益性を高めるために策定する行動計画です。
この計画は、企業が自社の経営課題を見つめ直し、数年後の目標を明確にし、それに向けた具体的な取組みを整理するものです。
そして、その内容が国(主務大臣)に認定されると、計画を実行するための支援(税制優遇・金融支援・法的支援)を受けることができます。
支援内容:3つの柱+補助金の加点

① 税制支援:設備投資の際に“税金面での優遇”
経営力向上計画を国に認定してもらうと、該当する設備投資に対して税制面の優遇措置を受けられます。これが、「中小企業経営強化税制」です。
企業は、次の2つの優遇から選んで適用できます。
- 即時償却:購入した設備の金額を、購入年度に全額経費計上(損金算入)できる
- 税額控除:購入金額の一部(最大10%)を法人税から直接控除できる(資本金3,000万円超は7%)
この制度を活用するためには、投資対象の設備が国の定めた条件を満たしていることを「第三者の証明」で示す必要があります。
A類型・B類型・D類型とは?その違いと必要書類
「A類型」「B類型」「D類型」という言葉は、投資対象の設備がどのような目的・効果を持っているかによって分類されたものです。
類型 | 設備の内容 | 要件 | 必要書類 |
A類型 (生産性向上設備) | 最新モデルの省力化・省エネ型設備など | 旧モデルと比べて年平均1%以上生産性が向上 | 工業会等による「証明書」 |
B類型 (収益力強化設備) | 利益率を向上させる戦略的な投資設備 | 投資利益率が年平均5%以上の見込み | 経済産業局による「確認書」(公認会計士などによる事前確認が必要) |
D類型 (事業承継・再編型設備) | M&A・事業承継に伴って導入する再編設備 | 修正ROAまたは固定資産回転率が一定以上改善 | 経産局の「確認書」+承継等の事前調査記録 |
「証明書」や「確認書」って何?
これらの書類は、税制優遇の対象となる設備であることを国に“証明”するためのものです。申請者本人が「これは該当します」と言っても、第三者のチェックが必要です。
工業会等の「証明書」(A類型)
- 対象設備が、旧モデルと比べて性能(省エネ率、生産スピードなど)が年1%以上向上していることを示す
- 設備メーカーが申請し、工業会等が証明
- 設備購入前に必ず取得することが必要
経済産業局の「確認書」(B・D類型)
- 投資による収益性向上(B類型)、または経営指標改善(D類型)が期待されることを、公認会計士または税理士が検証した上で、経済産業局が正式に認定
- 計画提出前に確認書を取得しておくことが必要
なぜ必要なのか?
国の税制優遇を使う以上、公平かつ客観的に「この設備は効果がある」と示す必要があるためです。
また、悪用や過剰申請を防ぐ意味でも、第三者によるチェック体制が不可欠なのです。
注意点
- これらの証明書や確認書が揃っていない場合は、たとえ経営力向上計画が認定されても、税制優遇を受けることができません
- 「設備の取得前」が原則。申請のタイミングを間違えると制度が使えなくなる可能性があります
② 金融支援:融資・保証・資金調達の安心感
設備投資や事業再構築には資金が必要です。経営力向上計画の認定企業には、通常より有利な条件での融資や保証制度があります。
代表的な支援は以下の通りです:
支援内容 | 内容・メリット |
日本政策金融公庫の特別融資 | 設備資金に対し、特別利率で融資可能(最大14億円) |
信用保証協会の保証別枠化・拡大 | 保証上限額が増加。新事業活動やM&A時に有利 |
経営者保証の免除 | 一定の財務要件を満たせば、個人保証不要に |
食品流通機構による債務保証 | 食品関連業向け。巨額資金でも保証支援あり |
スタンドバイクレジット(海外展開支援) | 日本公庫が海外金融機関と連携し現地通貨建て融資を可能に |
③ 法的支援:承継時の手続き負担を軽減
後継者への事業承継やM&Aを行う場合、許認可の引き継ぎや債務の手続きが大きな壁となります。経営力向上計画では、これをスムーズに進めるための法的支援も用意されています。
- 許認可の承継特例:旅館業や建設業などの許可を、新しい経営者がそのまま引き継げる
- 組合設立の発起人数緩和:通常4名必要なところを3名で設立可能
- 債務引受の簡略化:債権者への「催告」だけで同意とみなされる
④ 補助金申請時の加点:採択率が上がる!
経営力向上計画を認定されると、次のような補助金申請時の加点対象になります。
補助金の採択率を高める意味でも、計画認定の意義は大きいと言えるでしょう。