借入れ?返済?増資? 財務キャッシュフロー(財務CF)で読む資金調達と還元【Vol.4 財務CF】
会社の「お金のやりくり」、どうなっていますか?
これまでのシリーズで、会社が本業でどれだけ現金を稼いでいるか(営業CF)、そして将来のためにどれだけ投資しているか(投資CF)を見てきました。営業CFがプラスで、その範囲内で投資CFのマイナスを賄えているのが理想的な姿の一つです。
しかし、常にそううまくいくとは限りません。
- 「大きな設備投資をしたいが、手元の現金だけでは足りない…」
- 「一時的に資金繰りが厳しく、運転資金を確保したい…」
- 「利益が出たので、株主(オーナー)に還元したい…」
- 「借入金の返済期限が来た…」
このような、会社の資金調達(お金を集める)や、その返済・還元(お金を返す・配る)に関わる現金の動きを示すのが、3つ目のキャッシュフロー区分である「財務活動によるキャッシュフロー(以下、財務CF)」です。財務CFは、会社がどのように資金をやりくりし、事業活動を支えているのか、その実態を映し出します。
財務CFは、会社の「資金調達・返済・株主還元」活動による現金の動きを示す
「財務活動によるキャッシュフロー(財務CF)」は、会社の資金調達(借入れや増資など)や、調達した資金の返済(借入金返済など)、および株主への還元(配当金支払いなど)といった、主に貸借対照表(B/S)の負債(有利子負債)や純資産の部に関連する活動による現金の収入と支出を示す項目です。
財務CFを分析することで、会社が外部からの資金調達にどれだけ依存しているか、財務的な負担(返済など)をどれだけこなしているか、株主に対してどう報いているかなど、資金繰りの戦略や財務活動の健全性を評価することができます。
なぜ「財務CF」が重要なのか? その見方と分析ポイント
財務CFが会社の財務戦略を理解する上でなぜ重要で、どのように分析すればよいのでしょうか?
理由1:会社の「資金調達の方法」がわかるから
会社が活動を行うためには資金が必要です。その資金をどのように調達しているのか、その実態が財務CFに表れます。
- 財務CFがプラスの場合: 借入れを行ったり、増資(新しい株式の発行)を行ったりして、外部から資金を調達したことを示します。特に、営業CFだけでは投資CF(将来への投資)を賄いきれない場合に、財務CFがプラスになることがあります。
- 財務CFがマイナスの場合: 借入金を返済したり、配当金を支払ったりして、資金が社外に流出したことを示します。
どのような方法で資金を調達し(借入か、増資か)、あるいは返済・還元しているのか、そのバランスを見ることが重要です。
理由2:財務CFの「主な内訳項目」を知る
財務CFがプラス・マイナスになる具体的な要因(内訳項目)は以下の通りです。
- プラス(現金の収入)となる主な要因:
- 短期借入れによる収入: 金融機関などからの短期的な借入れ。
- 長期借入れによる収入: 金融機関などからの長期的な借入れ。
- 社債の発行による収入: 投資家向けに社債を発行した場合。
- 株式の発行による収入: 新株を発行して増資した場合。
- マイナス(現金の支出)となる主な要因:
- 短期借入金の返済による支出:
- 長期借入金の返済による支出:
- 社債の償還による支出: 発行した社債を満期などで買い戻した場合。
- 自己株式の取得による支出: 自社の株式を市場から買い戻した場合(間接的な株主還元)。
- 配当金の支払額: 株主へ利益を分配した場合。
(※個人事業主や合同会社などでは、「事業主貸(オーナーへの支払い)」「事業主借(オーナーからの入金)」なども、広義の財務CF的な動きとして捉えることができます。)
理由3:「プラス・マイナス」の意味を状況に応じて判断する【総合的解釈】
投資CFと同様に、財務CFもプラスかマイナスかだけで単純に良し悪しを判断することはできません。 会社の状況や他のキャッシュフローとの関係性の中で解釈する必要があります。
- 財務CFがプラスの場合:
- 成長投資のための資金調達: 営業CFと合わせて大きなマイナスの投資CFを賄っているなら、前向きな資金調達と言えます。ただし、過度な借入は将来の返済負担増(→将来の財務CFマイナス要因、安全性低下)に繋がるリスクがあります。
- 運転資金や赤字の補填: 営業CFがマイナスの場合に財務CFがプラスだと、本業の不振を借入で補っている可能性があり、要注意です。
- 財務CFがマイナスの場合:
- 健全な借入返済・株主還元: 十分な営業CFがあり、その範囲内で借入返済や配当を行っている場合は、財務的な体力がある証拠であり、健全な状態と言えます。
- 資金調達難?: 必要な投資があるにも関わらず、資金調達ができずに財務CFがマイナス(あるいはプラス幅が小さい)場合は、会社の信用力に問題がある可能性も考えられます。
理由4:「営業CF・投資CF」と合わせて”全体像”で捉える【最重要ポイント】
財務CFの分析で最も重要なのは、営業CF、投資CFと合わせた3つのキャッシュフローのバランスを見ることです。財務CFは、営業CFと投資CFの結果を受けて、最終的な現金の増減を調整する役割を担うことが多いからです。
- 理想的なパターン(自己資金型):
- 営業CF(+) > 投資CF(-)、財務CF(-:借入返済・配当など)
- → 本業の稼ぎで投資を賄い、さらに借金も返し、株主にも還元している。非常に健全。
- 成長期のパターン(外部資金活用型):
- 営業CF(+) < 投資CF(-)、財務CF(+:借入・増資など)
- → 本業の稼ぎ以上に投資しており、不足分を外部から調達している。成長のためには必要だが、バランスと将来性が重要。
- 成熟期のパターン(還元・安定型):
- 営業CF(+)が大きく、投資CF(-)は小さい、財務CF(-:借入返済・配当など)
- → 本業で大きく稼ぎ、投資は維持程度で、余剰資金を返済や還元に充てている。安定しているが、将来の成長鈍化に注意。
- 要注意なパターン(資金繰り悪化・借入依存型):
- 営業CF(-)、投資CF(-または+)、財務CF(+:借入)
- → 本業で現金が足りず、借入で凌いでいる。投資も抑制(または資産売却)している可能性。早急な改善が必要。
このように、3つのキャッシュフローの組み合わせを見ることで、会社の置かれている状況や戦略、財務の健全性について、より深く、多角的な評価が可能になります。
事例:財務CFから見る、企業の資金繰り戦略
前回の記事のA社、B社、C社に財務CFを加えると、以下のような全体像が見えてきます。
- A社(ベンチャー企業):
- 営業CF: +10百万円
- 投資CF: -80百万円
- 財務CF: +70百万円 (増資)
- 現金増減: ±0百万円
- 分析: 投資の不足分(70百万円)を、借入ではなく増資(自己資本の増加)で賄っている。財務リスクを抑えつつ成長を目指す戦略か。
- B社(老舗の安定企業):
- 営業CF: +200百万円
- 投資CF: -50百万円
- 財務CF: -150百万円 (借入返済 100 + 配当 50)
- 現金増減: ±0百万円
- 分析: 潤沢な営業CFから投資を行い、さらに多額の借入返済と配当を実施。財務的に非常に安定しており、株主還元も重視。
- C社(業績不振企業):
- 営業CF: -30百万円
- 投資CF: +50百万円
- 財務CF: -10百万円 (返済義務のある最低限の返済か?)
- 現金増減: +10百万円
- 分析: 本業の赤字を資産売却で補い、新たな資金調達もできていない(むしろ返済)。手元現金は一時的に増えているが、極めて危険な状態。
財務CFで資金の出入りをコントロールし、健全な財務運営を!
財務活動によるキャッシュフロー(財務CF)は、会社がどのように資金を調達し、どのように返済・還元しているか、その実態を明らかにする重要な指標です。
営業CF・投資CFと合わせて総合的に分析することで、会社の成長ステージや戦略、財務的な健全性やリスクを読み解くことができます。自社の財務CFがどのような状態にあるかを把握し、将来を見据えた健全な資金調達・財務戦略を立てていくことが重要です。
次回の最終回では、これら3つのキャッシュフローの関係性をまとめ、P/L・B/Sとの繋がりについても解説します。
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